第108回 円安と換金

最近、円安が続いており、日本経済への影響を懸念する声も聞こえてはいますが、日常生活に於いてその影響を直接感じることは今の私の場合はあまりありません。が、中国に留学しているときは影響が大アリで、少しでもレートのいいときに換金に行こうと、留学生たちは毎日為替レートをニュースでチェックしていました(当時はインターネットがありませんでしたので)。

 

当時、ドルは固定相場制で8元が1ドルと決まっていましたが、円は変動相場制で毎日のようにレートが変わります。お金をドルで持ってきている人もいましたが、私は円で持ってきており、交換留学のための奨学金も円で中国の口座に振り込まれていました。私が中国にいた期間で最もいいレートだったのが1万円=770元、悪かったのが1万円=550元。550元のときは、丁度夏休みで中国内を旅行していて、お金もかかるときだったのだけど、レートの悪さを考えたらなかなか換金できませんでした。物価の安い中国では、1元の違いがとても大きく感じられました。レートはどこまで下がるのか、また、上がるのか想像がつかないので、今だ!と思って多めに換金しても、次の日もっとレートがよかったり、前の日に他の留学生にレートがよかったと聞き、次の日急いで銀行に行ってみると、その日は前日より下がっていたりしました。

 

当時、唯一外貨を換金できる中国銀行は、大学からバスで40分くらいの街中にしかありませんでした。銀行は12時から2時半ごろまで昼休みで、その時間帯はシャッターがしまっていて開かないので、いつも授業が終わってお昼ご飯を食べてから、のんびりと銀行に向かいました。多額の換金をするときは、女子留学生は絶対に一人では行きませんでした。バスの中で財布をすられたり、鞄を切られたりということがよくあると留学生の先輩たちから聞いていたし、日本と違って治安がよくないことは嫌というほどわかっていました。

 

銀行に近づくと毎回「日元,美元?(リーユエン、メイユエン/日本円かドルかある?)」と繰り返し言いながら寄ってくる人たちがいました。闇両替です。彼らは私たちが外国人であることを瞬時に見分けて近寄ってきました。闇両替で替えると、銀行より1万円につき50元くらいはレートがいいので、闇両替で換金する外国人は多くいました。が、多めに換金すると偽札を混ぜられていることも多いので、その場でざっと目を通す必要があります。(当時、田舎のほうでは銀行で換金しても偽札が混じっていることがあるくらいでした。その場での確認は絶対に必要。)かといって、外でたくさんのお金を数えるのは危険なので、その闇両替の人についていって、建物の中で替えたり、長く中国に滞在している人は、闇両替のお店(表向きは服屋や雑貨屋だったりする)を知っていて、そこで換金していました。

 

当時、中国人が外貨を手にするのは難しいことでした。外国人が闇で換金したお金を、闇の両替商がもっと高いレートで、外貨をほしがる人に売るのだと聞いたことがあります。

 

銀行の前には必ず公安(警察官)がいましたが、それでも闇両替の人たちがあまりにも堂々と私たちに近づいてくるので(もちろん闇両替は違法。)、思い切って、見つかったら捕まるかもしれないのに、そんなに堂々としていて怖くないのか聞いてみたことがあります。そしたら、

「大丈夫、捕まらないから。ボスが手を回している」

という驚きの答え(中国に慣れたらそれほど驚かないけど。)。そして、しつこく俺のところで換金しろというそのおじさんに苦笑い。

 

その数年後、中国に行ったときは、留学中にはどの地方に行っても中国銀行の前に並んでいた闇両替の姿はもうありませんでした。経済の発展とともに、中国人が外貨を手にすることはもう特別なことではなくなったのだと驚いたのを今でも忘れません。