第26回 心がついていかないよ

近所に、親しくしている中国人のおばさん(50代)がいます。彼女はだんなさんの仕事で、二年前に中国からやってきたのでした。彼女はいろんな話を私にしてくれます。文化大革命の下放政策のときには、農村で牛の世話をしたり、畑を耕したりしたこと。昔は貧しかったけど、みんながそうだったから気にならなかった。食べるものや服を作る布など、ほとんどのものが配給で、あまりに背が高かった自分の兄は、布が足りなくて困った。病院は無料で、公的な機関でも手続きにはお金がかからないものだった。他人におめでたいことがあれば、自分のことのように喜び、いいものがあればみんなで分け合った。困っていれば助け合った。お互いに秘密などなくて、なんでも公になっていて、お互いに信頼しあっていた。近所に子供を預けて、忙しいときは子供はそこで食事させてもらうのが普通だった…など。

 

そして、おばさんは決まってこのように続けるのでした。

「だけど、今の中国はねぇ・・・昔の中国を知っていると、今の個人主義が理解できないのよ。どうしてこうなっちゃったのかね。短い間にいろんなことが変わりすぎてしまったよ。確かに経済成長はして、豊かにはなったんだけどね。お金のために何をやってもいいと思っているひとが多いし、今は隣の家の人ですら信用できないよ。格差があまりにも広がって、もう平等って言う言葉はどこに行ってしまったの?って感じだし。嫉妬やねたみで人の足をひっぱろうとする人もたくさんいるんだよ・・・」

 

確かに、中国はここ10年で中国人も「天地を覆すほどの変化(翻天覆地的变化)」と言うほどの目覚ましい発展を遂げました。私は98年~2000年にかけて留学していたのですが、そのときの中国と今の中国は全く違います。とにかく発展が早く、変化が激しく、誰かが「今日の中国は昨日の中国ではない」と言いましたが、まさにその通りだと思います。留学していたときにもその刻々と変わっていく様を肌で感じることが何度もありました。中国に入国したばかりのときには、ハルビン市内のスーパーでは入手できなかったものが、その年の年末には売られるようになっていたり、大きなスーパーに行くのに一時間バスにのっていたのが、帰国する頃になると、大学から徒歩10分圏内のところにスーパーがいくつもできたり、高速道路の高架がどんどん増えたり。いつも見ていた風景が、あっという間に知らない街になっていきました。日本が戦後、20年も30年もかけてゆっくりと発展してきたのに比べ、中国は短期間で、あっというまに日本に追いついてしまった感じです。

 

おばさんは、あまりにも変化が激しすぎて、娘さん(二十代後半)に昔の話をいくらしても理解されず、御伽噺を聞いているような反応しか返ってこないと言いました。彼女自身も時々若者と話すと、何世代も後の人間と話しているような気がするそうです。

「同じ中国人だけど、全然違うのよ」

と、おばさんは笑います。

 

「私はね、全てがあまりにも早く変わってしまって、心がついていけないの。40代以上の人間はみんなそうだと思うよ」

日本も昔、経済成長、変化の時代を迎えたことがあり、その前の時代を知っているひとたちは、おばさんと同じように感じたかもしれません。が、中国はその何倍ものスピードで変わっていくので、心の準備をする前に新しい時代から取り残されてしまったと感じる人が多いのも分かるような気がします。

 

中国はまだまだ変わっていくでしょうね。変化の波は都市部から農村部へと広がっており、そのスピードが緩まる兆しはありませんから・・・。