第28回 是非一言

先日、ある会合に出たときのことです。その会合には中国からのお客様も出席していました(日本語のできる方です)。終了間際に、司会者が

「ここで、中国からいらしたAさんが、この会の開催を祝して、是非一言ご挨拶したいということですので、お願いしたいと思います」

と言いました。Aさんが主催者から頼まれ挨拶をすることになっていたのは、私も知っていました。大きな拍手が起こる中、ちらっと傍に座っていたAさんを見ると、びっくりしたような、困ったような表情を浮かべていました。

 

会の終了後、Aさんは

「挨拶を頼んできたのは向こうなのに、あの紹介のしかたはないよな」

と、不満そうに漏らしました。私は、Aさんをたてるために司会者にわざわざあのように言わせたのかなと思っていて、Aさんがなぜそこまでその言い方にこだわるのかよくわかりませんでしたが…。

 

「中国では、挨拶を頼むときにああいう言い方はしないほうがいい。特に来賓に挨拶を頼むときは気をつけたほうがいいよ。あの言い方では、『私が他の人をさしおいて、でしゃばって挨拶したがっている』というふうに周りにとられてしまう。一人だけ目立ちたがっている・・・っていうことになってしまうんだよ。挨拶は、お願いされてするものだからね。まぁ、ここは日本だから、仕方がないと思っておくよ」

と、Aさんは苦笑いを浮かべながら、私に説明してくれました。

 

Aさんは歌が大変上手なのですが、以前ある集いに出て、来賓が何人か歌を披露したときに、Aさんの歌の評判を聞きつけた人が大勢の前で、

「ここでAさんが私もぜひ一曲と言っているので、歌ってもらおう」

と言い、とても恥ずかしい思いをしたそうです。中国では「私は歌が上手いのだから、是非みんなに聞かせたい」という意味にとられてしまうので、ずうずうしい奴だと思われたらどうしようと思ったそうです。Aさんが言うには、

「歌がとても御上手だと聞いていますが、一曲お願いできますか?」

と言われ、

「いやいや私なんて」

と一旦断り、

「そんなこと言わずにお願いします」

と言われてから、

「そうですね、それでは」

という流れで歌うのが相手のメンツをたてた好ましい頼み方だということです。想像したらなんだかわざとらしくて笑ってしまうのですが、中国はメンツ社会で、特に男性はメンツを非常に気にしますので、Aさんの言うこともわかる気がするのでした。

 

うーん、今後中国の人に、人前でなにかを頼むときは気をつけよう・・・。