第30回 日本は安全な国!?

先日、知り合いの中国人女性を連れて公的機関にある手続きをしに行ったときのこと。受付を済ませて、出口近くに行ったとき、鞄の中をごそごそやっていた彼女が突然、

「財布がない!」

と言い出しました。

「ええ~?!よく探してみて」

と、一緒に鞄を覗き込みますが、確かに鞄の中には見あたりません。

 

彼女の話では、受付に呼ばれたときに、たくさんの荷物を持って受付に行くのが面倒なので、そばにあったベンチの上に全ての荷物を置いて受付に行き、戻ってきたら財布だけがなかったということでした。(私も別の手続きをしていて、彼女のそばにはいませんでした)

「なんで貴重品が入ってるのに、ベンチの上に置いてっちゃったの!?」

「だって・・・日本は安全な国でしょ?中国みたいに盗られることはないだろうと思って・・・」

 

彼女の言うこともわかります。中国留学中、私たち外国人留学生が盗まれたものは数知れず、初めて盗難にあったのは中国で生活し始めたばかりの頃。留学先の大学の教室で放課後、日本人の留学生だけで勉強していて、教室を出るときカギをかけ忘れ翌日教室に入ると、黒板の前の机の上にあったいつも授業で使う大きなラジカセがなくなっていました。先生が、

「君たちは知らなかったから仕方がないけれど、今後は気をつけるんだよ。ここは、君たちの国とは違うんだから」

と、私たちにわかる中国語でゆっくり言ったことを今でも覚えています。そのとき、日本とは違うところに来たんだとはっきりと自覚しました。

 

その後も、私たち外国人は数え切れないほどの盗難にあいました。バスの中で、ポケットに入れていた財布をすられたり、街の中でかばんを切られ、中からパスポートなど貴重品を盗まれたり、ちょっと目を放した隙に駅でスーツケースごと持っていかれたり、新品の自転車がチェーンをかけていた小さい木ごとなくなったり、寮でもしょっちゅうものがなくなり、授業から帰ってきたら寮の部屋のカギが壊されていて、日本円とCDプレイヤーがなくなっていたり、共用洗濯機の上に洗剤を置いて一度部屋に戻り、数分後に戻ってきたらなくなっていたり、服を干しておいたらMADE IN JAPANのだけが盗まれていたり(その場には、中国製の服だけが残されていた。)・・・などなど。普通の中国人でも盗難にあうのだから、外国人は標的になる可能性が更に高く、みな気をつけなければいけないというのは分かっているのですが、盗まれるときはどんなに気をつけていても盗まれてしまいます。寮では貴重品はスーツケースに入れてカギをかけて、それをさらに棚に入れて棚にもカギをかけて、それでも盗られたらもうどうしようもないよね、という話をよく留学生同士でしたものでした。

 

留学していた当時(98年当初のことです)、中国人が外国人の物を盗んだら死刑(この法律は今あるかどうかわかりませんが)だと留学生の先輩たちから聞かされていました。古くからいる韓国人留学生の話では、他の留学生数人と列車に乗っていたときに、留学生の一人がカメラを盗まれ、列車に乗っていた公安(警察官)に伝えたところ、窃盗犯をすぐに見つけたがなかなか取り押さえることができず、結局銃を使って捕まえたということでした(その人に弾はあたりませんでしたが)。そのとき周りの中国人が、「あいつは死刑になる」と言い、驚く留学生たちに公安は、「そいういう厳しい法律にしないと、今の中国では外国人を守れないから仕方ないんだ」と。窃盗で死刑になる・・・というのは日本では考えられないことで、それだけ被害に遭う外国人が多く、治安が悪いということなのですが、こういう法律があっても、盗難はひっきりなしに起こりました。

 

それから10年以上が経ち、以前に比べて外国人が特に狙われるということはないかももしれませんが、そう状況がよくなったとも思えません。それに比べると日本はまだ安全だと言えるかもしれないですね。日本では図書館や喫茶店等でちょっと席を立つときに、かばんを置いていく人が多いし、街の中でかばんを切られて中のものが盗まれたり、目を離した一瞬の隙に手品の如くスーツケースがなくなることもあまりないでしょう。以前中国人の友達が、日本でかばんを盗まれて中にパスポートが入っていたので、中国の公的機関に連絡したら、日本で盗難にあうことはまずないはずだ、となかなか信じてもらえなかったと言っていました。中国人も日本は中国に比べると安全だと信じきっているのですね。ですが、日本もそう安全だとは言えません。私も傘や自転車を盗まれたり、私が留守のときに友達がケーキを玄関先に置いておいてくれたのがなくなっていたり、そういうことはたまにあります。最近では、車上荒らしやピッキングなどの被害も増えていると報道されていますし。中国にいるときのように、いつも気を張っているわけではないですが、日本にいても気をつけるにこしたことはありません。

 

また、中国は窃盗や軽犯罪は非常に多いけど、殺人や巨悪犯罪はそうでもないとアメリカ帰りの中国人教授から聞かされたことがあります(報道されないだけかもしれませんが)。アメリカは殺してから物を盗る犯罪が多いが、中国は物を渡せば命は助けてくれることが多いとも言っていました。確かに、昨今の報道を見ていると、猟奇的な性犯罪や無差別殺人は、日本とかアメリカのほうがずっとずっと多いような気がします。目にもとまらぬ速さで変貌を遂げていく中国なので、今後どうなっていくのかわからないけれど。

 

結局、彼女のお財布は、落し物として警察にとどけられていました。盗難じゃなくてよかった・・・。