第38回 トリリンガルって難しい

私は先に中国に留学し中国語を身につけ、帰国してしばらくしてから韓国へ渡りました。日本で韓国語をある程度勉強して行くこともできたけど、日本で教材を聴いて自分で何度も発音することが、自分が発している正しいのかどうかも分からない音を覚えてしまいそうで怖かったし(韓流ブームが起こるだいぶ前のことで、韓国語や朝鮮語の教材も今ほど充実していなかった)、中国へ行ったときも「你好,谢谢,再见(こんにちは、ありがとう、さようなら)」の三つだけしか覚えいなくて最初はものすごく困ったのですが、必要に迫られると乾いたスポンジが水を吸収するようにぐんぐん覚えたので、韓国へ行っても何とかなるだろうと「안녕하세요、감사합니다(こんにちは、ありがとうございます)」のみを覚えておきました。(単に怠け者だということもあるけど)

 

韓国で語学学校に通い始めて気づいたのですが、韓国語を覚えようとすると、頭の中に入っている中国語が邪魔をしてきます。私の脳が日本語以外にもう一つの言語として認識しているのは中国語で、韓国語をしゃべろうとしても中国語が出てきます。(英語をしゃべろうとしてもそうなります)三ヶ国語、四ヶ国語、五ヶ国語ができる人というのがいるけれど、頭の中は一体とうなっているのだろう!?そういえば台湾の俳優(日本国籍だけど)である金城武は、北京語、広東語、日本語、英語、台湾語が話せるといいます。本人はどれも完璧ではないとあるTV番組で言っていたけれど、完璧どころかちょっと話そうとしただけで混乱し、スムーズに話せなくて悪戦苦闘している私は彼に心から敬服の念を抱きました…。

 

中国語では1を「イー」といい、韓国語では2を「イー」といいます。韓国語初級クラスで数字のゲームをしたときに、先生が「カードに2(イー)と書いてある人手を挙げて」と言いました。私のカードは1でしたが、とっさに手を挙げてしまいました。中国語の1と迷ってしまったのです。クラスの中国人に、こんな簡単なことも間違うのかと笑われてしまいました…。そのほかにも授業であてられたときに、とっさに中国語で答えてしまったり、クラスメイトのドイツ人に「你(ニィ/中国語であなた)」と言ったり、先生に向かって「老師(ラオシ/中国語で先生)」と呼びかけてしまったこともありました。韓国語は日本語と文法が同じで外国語の中では学習しやすいとは言うけれど、私には違う意味で難しく思えました。

 

数ヶ月たつと、徐々に韓国語も浸透してきて、中国語と韓国語を分けて使えるようになってきました。が、今度は韓国語を一生懸命やると中国語が抜けていき、中国語ばかり話していると韓国語がヘタクソになります。試験前に韓国語を集中して勉強していると、中国人から「最近中国語ヘタになったよね~」と言われ、週末中国人の友達と一緒に過ごし、月曜日学校に行くと、「なんでそんなに韓国語話せないの。今週末も中国の子達と遊んでたね?」と先生に言われます。両方を同じように...というのは、不器用な私には無理みたいでした。

 

しかも、この二ヶ国語に気を取られていると、母国語までもがおかしくなります。日本人の少ない学校を選んだので日本人がほとんどおらず、一日中日本語を一言もしゃべらないこともあり、そんな日が続くと、口語はまだいいのだけど、ニュースや新聞に出てくる文章語が思い出せなくなっていきます。「品種改良」という言葉を思い出すのに二日かかったこともありました。たまに実家に電話すると、うまく言葉が出てこず「あれ、あれ、そうそう、そのこと」などと、会話が指示語ばかりになっています。言葉はナマモノなんだ。使っていないとダメになっていくということに改めて気づかされました。

 

一方で中国語をやっていて良かったとも思いました。中国語ができたおかげで、分からないことは、上のクラスや長く滞在している中国人の友達に聞くことができました。韓国で困ったときはいつも中国語と中国人に助けられていました。(日本人が周りにいなかったからでもありますが)だけど、三ヶ国語を使いこなすって本当に難しい。やっぱりどれも完璧にっていうのは不可能に近いのかも。あまり手を広げずに、一つに決めて集中してやるのが自分には合っているうようです。ベトナム語やロシア語もやってみたいけど、当面はいま使える二つの言語に磨きをかけることが先決だなぁ・・・と思うのでした。