第70回 整形手術の通訳をお願いします!?②

韓国人の友人が、ソウル市カンナム(강남)にある有名な病院と、二重手術の費用の相場を教えてくれました。カンナム区には、美容整形街といえるほど、美容整形外科が集中していて、費用は日本円で九万~十三万円くらいだということでした(数年前です)。さっそくその病院に電話して予約をとりました。

 

賑やかなメインストリートに面した大きなビルの最上階に、その病院はありました。中に入ると、入り口のすぐ脇には大きな水槽があり、熱帯魚が何匹もひらひらと優雅におよいでいました。大きな白いソファがいくつも置かれ、天井には小さなシャンデリア。クラシックが静かに流れ、落ち着いた雰囲気をかもし出していました。病院というより、エステサロンの待合室といった感じでした。

 

三人の受付譲のくっきりした二重を見ながら、天然の二重だろうか、それともここでしたのだろうかと失礼な考ことを考えてしまいました。麗●も同じことを考えたらしく、私の耳元で

「あの人たちの目は、どうなのかな~」

と呟きました。

 

担当医はめがねをかけた、中年の優しそうな男性でした。白衣は着ておらず、唐辛子の模様の黄色いシャツを着ていました。

「先生、おしゃれですね。」

「患者さんを怖がらせないために、わざとこういう面白い柄のシャツを着てるんですよ」

 

先生は、針金のようなものを取り出し、その先を麗●の瞼にあてて二重を作り、彼女の希望の大きさを確認しました。麗●は緊張して言葉少なになっていました。

「あれ?どうして震えているの、僕はもう結婚しているから怖がらなくていいよ」

先生は彼女の緊張をほぐすために、おどけて冗談を言いました。

 

そのあと、手術方法の説明を受けます。二重の手術方法は何種類かあるようですが、彼女には切開法と言われるまぶたに沿って切開し、脂肪を取り除いて縫い合わせるという方法が適しているということでした。切開という言葉を聞いて、麗●は不安そうに私を見ました。

「大丈夫、痛くないよ。きれいにしてあげるから」

先生は、大きな手で彼女の肩を叩きました。カウンセリングの時間は20分~30分くらいですぐに手術の準備に入り、当日手術するとは思っていなかったので、ちょっと驚きました。

 

ここからは通訳は必要ないと言われ、私は手術室には入れてもらえず、待合室で待つことになりました。手術室のドアが閉まる前に、麗●は死刑台へ向かうような顔で振り返りました…。

 

一時間ほどして看護士に手術が終わったと告げられ、案内された部屋に行くと、彼女がベッドに寝かされてました。目の上には目を冷やすための布がのせられていて、彼女は私に気づくと、私の手をぎゅっと握りました。

「怖かったよ~。注射されて目が開かなくなって、カチャカチャって音しか聞こえなくてさ、あんたに手を握ってほしかったのに、いないしさぁ……」

三十分目を冷やして横になった後、麗●は準備してきたサングラスをかけました。二重の手術をすると、一週間くらいははれがひかず、人によってはあざが消えるのに時間がかかるため、しばらくはサングラスが必需品となります。このことを知ってから、韓国で冬でもサングラスをかけている女性を見ると、もしかして……と思うようになりました。

 

彼女の瞼にはバンソウ膏のようなものが張られていました。三日後にそれを剥がして抜糸となります。抜糸までは目に水が入ってはいけないので顔と頭は洗えず、気になるなら美容院で洗ってもらったら、と看護士がアドバイスしてくれました。(美容院に付き添ったら、何も言わなくても、美容師のおばさんが、「あら、二重の手術したのね。どこでやったの?いくらで?」などと聞いてきました。)

 

麗●の手術を知った友人たちの反応はというと、中国の男の子たちはみな整形反対派で、

「しなきゃよかったのに」

と、ブーイングの嵐。彼女に協力した私まで罵られかねない勢いでした。それでいて、みな興味津津で、彼女の顔を舐めるように眺めます。

「何よ、あたしの勝手でしょ!」

麗●は怒鳴り…、中国の女の子はやっぱり強いなと思いました。

 

彼女は、術後の経過に神経質になっていたましたが、三回目の診察で、待合室で向かいに座っていた手術を待つ娘と付き添いの母親が、しげしげと彼女の目を見ながら。

「あらまぁ、自然な二重ねぇ。こんなふうにできるなら、安心よね」

と言いました。麗●はその日一日上機嫌で、私は大役を果たしてほっとしたのでした。