第77回 バイクタクシー

中国には、バイクの後ろに人を乗せて目的地まで運ぶバイクタクシーというのがあります。バイクタクシーは主に短距離を走り、運賃はバスより高く、タクシーより安いです。中国は道が広いし、バスや地下鉄の駅の一駅間の距離が長かったりして、バイクタクシーをうまく利用すれば、近、中距離の移動には便利だとは思います。が、中国は交通事故が多く、留学中にバイクタクシーの事故を何度も目撃していたため、私は留学中に一度もバイクタクシーには乗ることはありませんでした。

 

ところが、数年前アモイに滞在したとき、泊めてもらっていた友達の家が車の入れないような細い道に囲まれた辺鄙なところにあり、一番近いバス停まで出る交通手段が徒歩かバイクタクシーしかなく、仕方なくバイクタクシーに乗ることになりました。日本でも私の周りにはバイクに乗る人はおらず、バイクは近くで見たことも、触ったこともないくらい遠い存在だったわけで、スピードが速く、事故になったら車より生存率が低いという印象しかありませんでした。

 

友達がバイクタクシーを止めると、太った運転手のおじさんは、バイクの前でヘルメットないの?大丈夫かなぁ・・・などとぼそぼそ言って怯えている私に、

「あんた、初めて乗るの!?うそでしょ!?どんな田舎から出てきたの」

と、あきれていました。一台のバイクに運転手と私と友達の三人が跨ると、大きなバイクが、小さく感じられました。バイクの三人乗りは日本ではあまり見ないかもしれませんが、中国のバイクタクシーではよくあり、四人で乗っていることもあるのです(さすがに、そのうち一人は子供ですが)。一番後ろの人は振り落とされないのか・・・と心配になりますね。四人が密着してかわいそうなバイクに乗っている様子はかなり衝撃的です。

 

バイクが走り出すと、私はしばらく目を開けていられませんでした。

「ぎゃーー!!早いっ。恐い~~~!!!!」

大きな道に出ると、ものすごいスピードで走っている車と接触するかしないかのところを走り、信号待ちしている車の群れをすいすい抜かして一番前に出ます。私は運転手にコアラのようにがっしりしがみつきながら、かろうじて薄目を開けてその様子を見ることができました。

 

突然運転手が進路を変えます。

「交警(交通警察)いるから、遠回りするわ!」

バイクの複数人乗りは取締りの対象になり、高い罰金が科せられます。現地で重要な交通手段であるバイクタクシーは本来は違法なのです。交通警察がいるのを見て、客が突然バイクを下ろされ、警察のところを通り過ぎてから(客は歩いてそこを過ぎる)、また再び乗せてもらう・・・というようなこともあります。

 

目的地のバス停まで着き、地上に足を下ろすと、膝ががくがくしました。

「あんた、大丈夫?別になんでもなかったでしょ?」

運転手は大声でハハハと笑い、遠回りしたから3元ね、と言ったが、友達がいつも2元の道なのだからと頑として譲らず、結局2元払いました。

 

バイクが去ってから、友達が今にもふきだしそうになるのをこらえながら言います。

「帰りは私が前に乗るわ。あんた、運転手のおじさんが息できないくらいしがみついてるでしょ。普通は座席の下のところを持つんだよ。運転手にあそこまでがっちりしがみつく女の子なんていないから、おじさんも驚いたと思うよ。あんなに激しく抱きつかれて喜んでたかも・・・(笑)。次は私が前に乗るから、私にならいくらでもしがみついていいからね。」

あまりにも必死でそこまで考える余裕なんてありませんでした。

 

数日後、バイクタクシーを止めたら、運転手は前回と同じおじさんでした。おじさんは私を見て、

「またあんたかぁ。バイクに慣れたかい?もう怖くない?」

とニヤリと笑い、私は苦笑いするしかありませんでした。