第85回 公安局の思い出

最近ニュースで中国国内の事件などが報道され、中国の警察である公安局が映ることがあり、以前公安でお世話になった(?)ことを思い出しました。

 

留学中、香港に旅行に行こうと思い立ちました。当時香港は中国に返還されたばかりで、日本人が香港に行きまた中国に戻るには「リターンビザ(中国語では『再入境签证』と言いました。)」というものが必要でした。外国人のビザは中国では公安局が担当していて、私たち留学生は、大学の「外事処」と呼ばれる留学生担当の課に言えば、ビザの申請は代行してもらえることになっていました(外事処はそれが主な仕事でした)。そこで外事処を訪れ、リターンビザを取ってくれるよう頼むと、暇そうにしていた顔見知りの係の女性が「分かった、やっておく」と言ったので、必要書類とパスポートを預けました。

 

ビザは一週間かからないで下りると他の留学生に聞いていましたが、中国なので何が起きるかわからない・・・と思い、余裕を持って二週間ほど前に頼んでおいたのでした。が、一週間が過ぎ、10日近く過ぎても外事処からは何も言って来ません。不安になり外事処に行って例の女性に聞いてみると、「まだ公安には行っていない」とのこと。驚いてどういうことか尋ねると、「ここ数日忙しかった。行けるわけないでしょ」との返事。さっきまでトランプしていたようだけど・・・。しまいには「あんた自分で行ってきな」とパスポートを付き返されてしまいました。むっとしましたが、中国ではこういうことはよくあることで…、時間もないし、怒ったりため息をついていても仕方がないので、自分で公安局に行くことにしました。

 

公安の窓口で。緑色の制服を着た、恐ろしく無愛想なお姉さんにリターンビザの申請に来たことを告げました。申請書を渡され、記入。ビザがいつできるのか尋ねると、3日後だといいます。出発が4日後に迫っていたので、再度確認すると「3日後って言ったでしょう!3日後に来な!」とつっけんどんに答えられてしまいました。

 

3日後に行き、お姉さんにビザを取りに来たと伝えると「まだできてない」と無表情に答えます。「3日後って聞いたんだけど・・・」と言うと、めんどくさそうに「明後日ならできてるから明後日来な。」と。仕方がないので出発を2日延ばして、翌々日また公安局へ。なんとその日もまたお姉さんに仏頂面で、「係の人が忙しくて、まだできてない」と言われました。途方にくれる私。こういう「明日、明後日・・・」とどんどん延びるケースは当時、手続き等でよくあったのですが・・・。まずい、この分ならまだ先になってしまう。急いでいるのにどうしよう。ちょうど開いたドアから、事務所の中にいる人たちがトランプしているのが見えました。(当時、トランプは民衆の娯楽で、お金を賭けている人も多くいました。)白熱して、時折大きな声が上がっていました。ほんとに忙しいのか!?と叫びたくなります。一体いつになったらビザがもらえるのだろう・・・。

 

放心状態で、入り口近くで立ち尽くしていると、一人の公安のおじさんが近寄ってきました。

「おじょうちゃん、外国人かい?どうしたの?」

「ビ、ビザが・・・リターンビザがとれないんです~!!」

私は半泣きになって、おじさんに訴えました。

「なに、どういうことだ?」

「5日前に出したのにまだできていないんです。3日でできるって聞いたから、一昨日も来たのに・・・急いでいるんです!!」

「なにか事情でもあるのかい?」

「ええと、じ、事情は・・・あ、姉が病気なんです~日本に帰らないと・・・」

まさか旅行に行くとは言いにくく、とっさにそう言ってしまいました。(日本に一時帰国する場合も同じようにリターンビザが必要だったのです。)

「なにっ、そうか。ちょっとここで待ってな。おじさんがなんとかしてやる。」

10分後、おじさんは私のパスポートを持って現われました。パスポートには私が欲しくてたまならなかったビザの印が押されていました。(当時のビザは今のようにシールではなく、大きなスタンプの印でした。)二週間待ったのに、なんと10分で出ました・・・。私は深々とおじさんに頭を下げて公安局を後にしました。翌日私は無事、香港に向けて出発することができたのでした。

 

おじさんあのとき、嘘ついてごめんなさい。私には姉はいません。でも本当に助かりました。ありがとうございました。

 

昔に比べると、中国の郵便局や銀行の対応はずっとよくなりました。私が直接公安にお世話になったのは、後にも先にもあのときだけなのだけど、今はきっと外国人も増えて、公安の対応もだいぶよくなっているだろうと思います。