第87回 言葉には注意しなきゃ

大通公園のベンチに座って一休みしていたら、隣のベンチに腰掛けている3人の話が耳に入ってきました。彼女たちは韓国人で留学生らしく、誰も分からないだろうと思っているのか、とっても大きな声の韓国語でおしゃべりを続けます。

「あの人のカッコ見て!日本人は奇抜な服装の人が多いよね。それに、あの女子高生たちのスカートの短さは何?」

「冬もあのままなんでしょ?韓国なら考えられないよね」

「ところで、こっちの食事に慣れた?口に合わないっていうか、まずくない?」

「何でも甘すぎるよねぇ」

などと、とっても楽しそう。

まさか、隣のベンチに座っている人が盗み聞き(彼女たちの声が大きすぎて、自然に聞こえてくるのですが・・・)しているとは思ってもいない様子。

 

外国にいるので、母国語で話せば何を話しているか誰も分からないだろうと思う人は多いはず・・・ところが、そういうわけでもないのです。言葉の分かる人はどこに潜んでいるかわかりません。自国の言葉が分かるのは、自国人だけとは限らないのです。

 

韓国にいるとき、私はドイツ人留学生の女の子と仲良くしていました。あるとき、私は彼女と彼女の友達のドイツの女の子と一緒に地下鉄に乗りました。私たちが座った座席の向かい側には、髪の毛を緑色に染めた若い男性が座っていました。ドイツ人二人は、彼と目が合わないようにチラチラ眺め、クスッと笑いながら、

「見て、あの頭。変な色だね~」

「東洋人に緑って似合わないわよね」

(私はドイツ語が分からないので、この会話の内容はあとで聞いたのですが)などと話していたら、その緑頭の男性が突然こちらをじろりと見て、

「そう笑わないで下さいよ。私は気に入っているんです」

と、流暢なドイツ語で答えました。彼女たちの驚いたことといったら・・・。その男性は、親の仕事で中学生までドイツで過ごしたのだと言いました。彼女たちが赤い顔をしてきまりわるそうに彼に謝るのを私は笑いながら見ていましたが、その後私にも同じことが起こります。

 

韓国の大学近くの食堂でご飯を食べていたときのことです。そこは中国人留学生がたくさん来るお店でした。私は中国人留学生の男の子と日本人留学生の女の子と三人で食事していましたが、そこに中国人の団体が入ってきました。一緒に食べていた男の子が、その人たちの方を指差して中国語で、

「あのデブは、俺の友達。同じクラスのヤツでさ。」

と言いました。彼の指の先には、かなりいい体格をした3人の男子が。

私は、それを日本人留学生に通訳しようとして、

「あの太った人、彼の友達なんだってさ。だけどどの人かわかんないなぁ。同じような人が3人いるもん」

と、余計なことまで言ってしまいました。数日後、他のクラスとの合同授業で、その三人の中の一人が日本人だったことがわかり…、数日前に食堂で私が言った言葉はしっかり聞こえていたと知りました。なんと失礼なことを言ってしまったのでしょう。私は彼とは目をあわせられず、穴があったら入りたい気持ちになりました。

 

まさか、こんなところに言葉が分かる人がいるはずが・・・しかし、いるときはいるのです!やはりどんな言葉でも、その人を目の前に失礼なことを言うべきではないし、どうしても言わなければいけないときは、小声で話すべきですね。

 

隣のベンチの三人の一人が、スカートにアイスクリームを落としました。ティッシュを探しているようだったので、

이거 쓰세요(イゴ スセヨ/これ使ってください)」と差しすと(以下韓国語で会話。)

「韓国人ですか?!」

と三人は驚いた顔をしました。

「いえ・・・違いますが。以前、韓国に住んでました。」

すぐに、

「・・・言葉には注意しなきゃ」

と、一人が言い、三人のおしゃべりはぴたりと止んだのでした。