第89回 私のルームメイトを紹介します(韓国編)

私は韓国に滞在中、初めはホームステイをしていましたが、半年ほどしてハスクと呼ばれる下宿に移り、そこで韓国人のルームメイトと一緒に生活していました。ルームメイトの名前はヘギョンと言って、小学校の先生をしていました。彼女の専門は体育。趣味は日本の剣道で、とても熱心に練習していて、3段の腕前を持ち、いつも竹刀を持っていました。(韓国にも日本の剣道は普及しています。剣道人口も少なくありません。)

 

彼女が冗談で、

「悪い人が来たらさ、これで守ってあげるから。」

とニヤリと笑って竹刀を振り回す姿は迫力満点。『悪い人』も腰を抜かして逃げ出すに違いない…と思いました。彼女は色白で、整った顔立ちをしていましたが、恋人が長らくいませんでした。口癖は、

「私より強くないと、私の彼氏にはなれないのよ!」

…けど、それはなかなかいないんじゃないかなと思う、とは私の口からは言えませんでした。

 

韓国では国民の約4割がクリスチャンですが、彼女も敬虔なクリスチャンで、毎週日曜の礼拝は欠かしませんでした。武者のごとく竹刀を振り下ろす姿と、静かに祈りをささげる姿のギャップがまた魅力的だな~と思わせます。

 

韓国では高校から第二外国語の学習がありますが、彼女は日本語を選択していて、私の日本語もある程度は理解できました。最初は私も頑張って韓国語で話していましたが、だんだん面倒くさくなって、ヘギョンが聞き取れなくても日本語で話しつづけているうちに、いつの間にか彼女は私の話す日本語をほぼ聞き取れるようになり、私が日本語で話して彼女が韓国語で話すというはたからみたらなんとも不思議な会話で生活するのが普通になってしまいました。

 

あるとき、なんで日本語を選択したのか尋ねてみたら、びっくりするような答えが返ってきました。

「日本人に戦争や独島(竹島)のことで文句を言うためだよ。高校の時、クラスメイトといつか日本人に会ったら言ってやろうって誓ったの。」

彼女は真面目でとても愛国心の強い子だったので・・・、直球が返って来ました。

「日本は韓国より領土が広いのに、まだ独島(竹島)が欲しいって言うの?欲張りだよね。」

夜、布団に入ったらおしゃべりをするのだが、この話題になると、朝まで話すこともありました。

 

「日本は2回も韓国を侵略してるよね。」

「2回?1回じゃないの?」

「豊臣秀吉を忘れたの?」

まさかそんな前のことで責められるとは思っていなかったので、

「そんな昔のこと!?」

と、思わず言ってしまいました。

 

ヘギョンはその答えが気に入らないようで、

「それが今の日本人の代表的な意見ならがっかりだわ。時間がたてば忘れちゃうわけ?あなたの祖先が、私の祖先を殺しているかもしれないんだよ」

と。そう言われて、改めて日本人と韓国人の意識の違いを思い知らされました。日本人なら、私と同じようにそんな昔のこと言われても・・・、と感じると思うのですが、祖先や一族を大切にする韓国人には簡単に忘れてはいけない出来事で、韓国には喜怒哀楽の他に「恨(ハン)」という感情があり、それは500年続くと言われていることにも関係があるように感じました。 (ご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、チョウヨンピルさんの歌にも「恨五百年」という歌がありますね。)

 

日本に対してなかなか厳しいこともずいぶん言われましたが、彼女と暮らしたことによって、うわべだけではなく他の韓国人がなかなか日本人の私には面と向かっては言いにくい、深い部分で日本人についてどう考えているのか本音を知ることができました。 受け入れることはできないかもしれないけど、相手が何を考えているのか、またどうしてそう考えるのかを理解することは、外国人と交流する上でとても大切なことだと思いました。

 

また、彼女にはずいぶん助けてもらいました。下宿のおばさんに家賃を倍とられたときは彼女が取り返してくれたし、ほかの韓国人に貸したものが返ってこないときは、彼女が交渉してくれました。韓国人は情が深く熱いので、立場の弱い人や困っている人を見たらすぐに(相手が遠慮するかもなどとは考えずに)手を差し伸べますし、自分の意見を躊躇せずに言う人が多いです。その姿に感心させられることも何度もありました。

 

そして、彼女が私より一つ年下だったということで、彼女はいつも私を「オンニ(お姉さん)」としてたててくれていました。これは韓国独特の人間関係で、年齢差が一歳でもあれば儒教思想の強い韓国では、「友達」という関係にはならず、年下は年上のことを「オンニ」と呼び、仲の良い「姉妹」のような関係になります。もし彼女が私より年上であったら、全く違う関係になっていたでしょう。彼女はきっと大変頼もしい「お姉さん」だっただろうなと思います(笑)

 

彼女を思い出すたびに、彼女より強い男は果たして見つかったのか気になっています。条件が厳しすぎると思うのですが・・・。近々手紙でも書いてみようかなと思います。