第93回 やっと頼んでくれた

コンピューター関係の翻訳作業に追われていたときのことです。専門用語が多すぎて、数日かけてもどうしても自分では調べきれない単語がいくつかありました。そこで仕方なく、天津にいるパソコンに詳しい中国人の友達に助けを求めることにしました。彼は自分で会社をやっていて普段から超多忙。そのときは丁度旧正月前で、一年で一番忙しい時期に面倒な頼みごとをするなんて申し訳ないな~・・・と思いながら連絡をとり、おそるおそる分からないところを教えて欲しいのと全体的なチェックをお願いすると、彼は快く引き受けてくれ、嬉しそうに、

「やっと、僕に頼んでくれたね!」

と言いました。

「今まで僕のほうがいろいろ頼んでばかりだったでしょう。お互いに助け合わないとね!」

 

そういえば今まで私は、彼に頼まれて彼の会社のWEBサイトを日本語に訳したり、彼のサイドビジネスの取引先になりそうな日本の業者を探したり、日本から彼が必要なものを探して送ったり等等してきたのでした。このコラムにも書いたことがありますが、中国人は親しくなると遠慮せずに何でも頼んで来ます。それがちょっと頑張れば自分でできることでも、相手の迷惑になるから・・・という遠慮はしません。親しければ親しいほど頼む頻度も多くなり、内容も複雑で重みのあるものになります。仲がいいなら、困ったときに自分のために何かしてもらうのは当然で、逆に親しくしている相手が何か問題に遭遇したときに、何も頼んでこないというのは「なぜ私を頼らないのだろう。私は相手に心を開いているが、この人は自分に距離をおいているのではないか?」と思うのだそうです。

 

中国人との付き合いに慣れていたので、頼まれることはなんとも思わずにやっていましたが、こちらから何でも頼むというのは「他人に迷惑をかけるのはいけないことだ」と小さい頃からインプットされている日本人の私にはなかなかできず・・・。まず、最初から人に頼むということが頭にないですし、自分でできるだけやって、どうしてもだめなら頼む・・・という形になってしまいます。

 

以前、中国の書店で見かけた日本語教材の本の中で、日本の習慣が紹介されており、「『迷惑をかける』とは日本独特の考え方である。日本人は親しい人にも遠慮をする。」と説明があったことを思い出します。これを読んだだけでは、もともと「迷惑をかける」という感覚がない中国人には、どういうことなのかはっきりとはわからないだろうなと思いました。日本に来て、日本人に囲まれたときにそれがどういうことなのか初めて理解できるでしょう。

 

以前、私がルームメイトの中国人に、

「髪を切りたいんだけど、前にあなたが行った美容院に連れて行ってくれない?」

と頼んだときに、彼女が妙に喜んで、

「もちろんだよ!カコの初めての頼みごとだね。何があっても連れて行くよ!」

とうきうきしていたことが頭に浮かびました。いつもは彼女が私に頼みごとをすることがほとんどだったのです。(その頼みごとの内容は宿題をやってほしい、○○を探して買ってきてほしい、彼氏への贈り物を選んでほしい、手術の通訳をしてほしいなどなど様々。最初はあまりに多くて驚きました。)彼女が喜んだのは、仲のいい友達がやっと自分を頼ってくれたという天津の彼と同じ理由からなのでした。

 

頼みごとをして喜ばれるというのはなかなか日本ではないことなので戸惑ってしまいました。以前、そのルームメイトに

「日本では、仲がよかったとしても気軽になんでも頼まないし、そこまで人を頼らない。」

と言ったことがあります。そしたら彼女は不思議そうに、

「頼らないでどうやって生きていくの?人は助けあって生きていくものでしょう?」

と言いました。そうだね、その通りなんだけど・・・。やっぱり私は宿題をやってとか、彼氏へのプレゼントなんでもいいから適当に買ってきて・・・とかは頼めないな~と思ったのでした。